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王城の朝は静謐な空気につつまれていた。窓から差し込む陽光にわずかに舞った埃が反射している。ああ、朝なのだと寝ぼけた頭は同じことの繰り返し、まるで覚醒を迎えようとはしていない。
昨日はひたすらに鍛錬に打ち込んだ。その疲れが体のだるさを引き起こしているのだろう、起き上がることがこのうえなく億劫に感じられる。私はいつも早くに目を覚ますので、もう少しこうしてまどろんでいても問題はないだろう、と再び目を閉じた。
「あら、あたしを目の前にして二度寝にしゃれこもうっての?」
それは、私の部屋で聞くはずの声ではなかった。なにせ王女は朝寝坊の見本ともいうべきお方であり、他国との会合ですら寝過ごした経歴をお持ちなのだ。とても私が目を覚ます時間帯に起きているとは思えない。
つまりこれは悪夢なのだ。まさか二度寝を決意してからここまで寝つきが早いとは思わなかったが、日ごろの疲れがたまっているのだろうか。げんなりとしてしまいそうになるが、今は夢の中だ。せめて安らかな眠りをと思い声を無視していると。
「ヴォリィ、起きなさい」
「ごふっ……!」
柔らかくも強烈な蹴りが落ちてきた。王女の足は華奢に見えるが、体重を乗せた一撃は私でも無防備で喰らえばこたえる。
「な、何を、なさるの、ですか……!」
息も絶え絶えとはまさにこのことだった。なぜこんなに早く起きているのか、なぜ私の部屋にいるのか、糾弾すべき事柄はたくさんあったはずだが、まずは私への攻撃に抗議をしなければおさまらない。
王女はさもつまらないといった表情をしていた。ため息交じりにやれやれと手を振ると、いつものごとく無駄に凛とした雰囲気で声高に言うのだった。
「ハイキングに行くわよ、ヴォリィ」
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