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さて、聞こえただろうか。なるほど外出ともなれば王女の早起きにも納得がゆく。誰だって楽しみごとがあれば朝のけだるさなど少しの障害にもならないだろう。
けれども。私はそんなことなど一言も聞いていなかったし、何よりなぜ私が王女とハイキングなぞに行かなければならないのか。
「護衛だからよ」
「質問する前に答えるのはやめていただきたい」
わかりきったことではあるが、私は王女エリーヌの護衛である。代々王族の護衛は王に忠誠を誓う騎士の中で最も争いごとに長けた者が就く、由緒正しき役職である。
数年に一度開催される闘技大会を勝ち抜いた者が栄誉とともに勝ち取る立場なのだが、護衛となって約一月。私は早くも栄光ある役職から逃れたいと思うようになっていた。
国で最も優れた騎士は、はたして国で最も強き者であるか。答えは否だ。協会に属さず、王城にも仕えていない高名な魔術師は数えるほどではあるが存在し、自らの剣を王に捧げることをよしとしなかった騎士も大勢いる。もちろんそんなはぐれ者に私が劣るとは思っていないが、しかし。
目の前にいるこの王女こそ、戦乙女とでも言うべき才覚の塊なのであった。
「とにかく決定事項よ。さっさと準備なさい」
「私でなくともよいでしょう。年頃のメイドと雑談に花を咲かせるもよし、貴族との社交の場にするもよし」
「なんであたしがそんなつまらないことをしなければならないのよ」
ひどく冷めた目で言われると、言い返す言葉も見つからなかった。
「しかしではなぜ、私でなければならないのですか」
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