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「あら、そんなことが気になっているの」
途端に王女は、妖艶な笑みを浮かべた。何かを試すような表情で近づいてくるかと思えば、あろうことかベッドの上、上半身だけを起こした私にずいとにじり寄ってくる。端正な顔立ちがすぐ目の前にある。私はひたすらに混乱した。
「自分のペットがやすやすと死んだら、あなたは虚しくならなくて?」
そして私の混乱はさらに加速する。はて、ペットとな。それは一体何を指す言葉で、そして私はその問いに何と答えればよいのやら。
にんまりとした笑みが遠のく。再びつまらなそうな顔。だが、紡がれる言葉には一切のよどみも、そして容赦もなかった。
「下手に人数を連れて行ってぽんぽん死なせては、あたしの沽券に係わる。かといって一人で城壁の外へ、なんて言い出したら一生外へなんて出られやしない。わかるでしょう」
事実を淡々と述べるだけの言葉には、覇気こそなかったが真に迫る重みがあった。もちろんその程度で私が心変わりするなどありえないが、王女の続けた言葉に私は仰天する。
「でもあなただったら、死ねばむしろ好都合よ。お互いにね。あなたが死ぬような事態になればそれは相当なことでしょう? 『絶望的な状況から王女を逃げ延びさせた英雄的活躍の騎士』、悪くないんじゃなくて」
今度はいたずらっ子のような笑みを浮かべる。王女はほんとうによく笑うお方だが、こういった冗談は笑えないどころか背筋が冷える。
「悪いです。冗談はおやめください、とても笑えませんから」
「ユーモラスじゃない、気に入らなくて?」
これを本気で言っているのだから私は心休まる暇もないのだ。
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