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「でもこれは本当よ。あなたほど腕のたつ者でなければ、あたしとの同行は死を意味する」
それでようやく私は合点がいった。すなわち、これはハイキングと見せかけた王女の憂さ晴らしであるのだと。
「また、行かれるのですか」
若干目の色が変わった私に対し、王女は挑戦的な視線を向ける。『よもや恐怖に足がすくんだなどとは言いますまい』と侮蔑を込めて語りかけてくる。
それは、護衛となった初日のことだった。王女自ら私に手合わせを申し込んできたのだ。私は護衛対象、しかも女性と打ち合うことに気が進まなかったが、本気でやらねばすぐさま護衛を解任し国家反逆罪に処すると脅されてしまえばなすすべもなかった。
そして私は敗北した。初めこそお互いの手の内を探り合うようなやりとりであったが、次第に王女の剣勢が増し、私はそれについてゆくので手一杯となった。ついに一度も優位に立てぬまま、私は王女の剣にひれ伏したのだ。
「あたしの期待を裏切らないでちょうだいね、ヴォリィ」
王女は私の敗北など意に介すことなく、むしろ久々の上物だと無遠慮に喜んだ。そうして度々外出の機会を得るようになり、それに同行する私は何度肝を冷やしたかわからない。
私は先代の護衛とも顔見知りであるが、確かに彼では王女の護衛は勤まるまい。むしろ王女が彼を守っていたのではないかと思うほど、王女の憂さ晴らしは苛烈を極める。
この国で王女に同行できる騎士は、おそらく私だけだろう。束になればそれなりの戦力にはなるだろうが、先ほど王女がおっしゃったとおりいたずらに兵を死なせるだけだ。それでは私用の範疇を超えてしまう。
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