マジキチと呼ばれた男

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 夕方の川沿いを僕はリズミカルに走っていく。  早歩きからスタートして、速度を上げつつ最後はジョギングへと移していく。これは毎日続けているトレーニングの一環だ。  今度ひらかれる寒中水泳大会。僕はそれに出場する。だけど練習もなく極寒の水へ飛び込むのはアホのすることだ。  僕は考えた。  本番に近い状態でトレーニングをするべきではないか……と。  だからこうして普段から大会当日と同じ水着姿で日々トレーニングを積んでいるのだ。今日も走っているのは待ち合わせ前に体を仕上げておくため。  だけど最初からこの姿だったわけじゃない。きちんと段階を踏んできた僕だからこそできる芸当だ。素人がいきなり海パン姿で街中を走っちゃいけない。  寒いからね。  そんな僕を周りの皆は「マジキチ」とか「変態」って言うけど……どこがおかしいというのだろう?  僕は寒中水泳大会に向けて、真剣に考えて取り組んでいるだけなのに。  僕が目指すのはただ一つ……優勝だ。今度の大会は、絶対に負けられない。  川沿いに走っていくと海に出た。  砂浜を渚の風がなでていく。沈みかけの太陽は、夜の帳がおりていくのを名残り惜しげに水平線を光らせていた。  ヤバい今の僕めっちゃロマンチスト。  海に着いたら引き返すだけ。待ち合わせのお店はここから近い。
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