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宙を舞うペンダントに向かって飛びついた。
伸ばした左手の指先が、チェーンをぎりぎり引っ掛けてつかみ取った。
「やった!」
喜びの声をあげられたのも束の間、僕は自分の状況を思い出す。
真下には水面があった。
気づくより、川に落ちる方が先だった。握り潰されるような水の冷たさが僕を襲う。
落ちたのは頭からか、はたまた足からか。天井も水底もまっくらで何も見えない。どっちが上かもわからない。
……もはやこれまでか。
すると、頭上に光が射しこんだ。
一本。いや二本、三本、四本……水中を照らす光は徐々に増えていく。
きれいだ。
水中からみたその景色。それはまるで天使の梯子のように美しい眺めだった。
僕は光の元へと進んだ。水をかき分け、ひたすらにかき分け、光を目指した。
やがて僕は水面に出た。目を拭うとたくさんの照明が目に入り、大勢の声が聞こえた。目を凝らしてみれば、ガードレールに多くの人が集まっている。
「いたぞ!」
「おうい! 大丈夫か!」
主にそんなことを言われている。手を振って無事を伝えた。光の正体はどうやら彼らの懐中電灯やスマートフォンのライトらしい。
多くの人が僕を呼んでいる。人のぬくもりを感じた僕はとても安心した。
僕は岸に向かってゆっくり泳ぎだす。川の水は凍てつくほどに冷たいけど、真冬の日本海を1日10キロ泳いでる僕にとっては大したことはなかった。
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