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「ねえ」
「はっ、はいっ!?」
僕は真剣な顔で恋人に向き直る。今、頭にほとばしった衝撃を整理しながらじっくり言葉を選んでいく。
「あのう、どうかしたの……?」
「僕はっ!」
「ひょい!?」
彼女は叩き付けたゴムボールのように目をしばたかせた。
突貫工事だけど、結論はできあがった。
「僕は、マジキチだ!」
「……え?」
すさまじく微妙な顔をされた。つらい。
「僕はやっぱりマジキチなんだよ。どうして今まで認められなかったんだろう」
「あの、えと、ごめん、その、意味がちょっと分かんないんだけど……?」
「ごめん僕にも分からない」
「えぇ」
ゴミを見るような目で見られた。つらい。
「だって好きなんだもん、君のこと」
僕がそう言ったとたん、恋人の動作が停止した。おそらく脳の処理速度が追いつけなくなったんだろう。
僕は考えた。何故こうも周りからマジキチ呼ばわりされているのかって。
僕は大会で優勝を果たすために努力しているだけだ。それを周囲からマジキチと言われる。
では何故そんな行為をしているのか?
恋人との約束を守るためだ。
だったら恋人との約束を守ろうとするのは何故だ?
……そんなの決まっている。
「好きすぎるんだよなぁ、頭おかしくなるくらい好き。うわ、めっちゃ好き。本当もう大好き」
「わぁあ、も、もう良いよ! そんな事言われたら、なんだか恥ずかしいよ……」
「あいらびゅー」
「もう良いってばあ!」
「だからさ」
「えっ」
恋人の手を引いて、もう一回エスコートする。
待ち合わせの飲食店、扉を開く。
あたたかい空気と音楽そして照明が、彼女の赤ら顔と僕の海パンをつつんだ。
「君のためなら、僕は何度だってマジキチになるよ」
【マジキチ】
・マジでキチガイじみているの略語。
常軌を逸する人物・物事。特に頭がおかしい人物を指して使う。
(そんなに偏った愛を示すのは――だ。)
**おしまい**
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