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回送バス
残業で午前様になった日、信号待ちをしていたら対向車線に一台の観光バスが現れた。
室内に電気は灯っているが、運転手以外に人の気配はない、どうやら回送バスのようだ。
長い信号待ちの間、見るともなしに見ていたら、奥の方に一人だけ乗客がいるのが目に入った。
回送ではなく深夜バスで、最後の一人が乗っているのだろうか。
なんとなく気になり、もう一度バスのプレートを見る。そこには行先ではなく『回送』の一文字があった。
やかで信号が青になり、疑問を開始要する間もなくバスが走り出す。俺の方も真反対へ進んで行く。
そのすれ違いざま、バスの車体を覗き込むと、はっきりと顔の見えないぼんやりとした影が、窓からこっちを見ているのが判った。そしてその人影は、俺の方に軽く手を振って消えた。
…さてここからは後日の話だが、新聞に、観光バスが運転手もろとも行方不明になったという記事が掲載された。
バスの詳細を知れば知る程、行方不明になったのはあのバスだろうという予想が沸く。ただ、あの夜見たことを話したとして、はたしてそれは信じてもらえるのだろうか。
真夜中に件のバスとすれ違いました。回送の筈なのに、運転手以外に乗客がいて、その人が、俺に手を振った後消えました。文字通り、バスの中から消滅しました。
普通に聞いたら頭のおかしい人間の発言だが、緊急事態だからな。一応バス会社に電話をしてみるべきだうか。
迷いながら車を走らせて会社へ向かう。その対角車線を一台のバスが横切った。
車体の色、大きさ、階層の文字まで、間違いなくあの夜のバスだ。そいつが俺が走っている道を横切って去って行く。…こちらが青信号だというのにお構いなしに。誰にも咎められず。他の車にいつ際ぶつかることなく、総てをすり抜けて去って行く。
運転手さんのためにも、会社に着いたらすぐ電話しよう。そう決めて、俺は急ぎ目に会社へと向かった。
回想バス…完
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