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公園の周りを走る。それを人はジョギングと呼ぶ。
運動ができる手頃なTシャツと高校生の時の体育着だった短パンに着替えて、僕は夜にその行動を開始する。
近所にある、その全周10キロの公園は近隣住民の憩いの場である。春になれば桜が咲き、初夏には瑞々しい緑の葉が公園からはみ出さんばかりに生い茂り、秋になれば紅葉の燃えるような赤に占拠され、冬になれば薄っすら積もる雪に一面覆われる。
これほどに四季が好きな日本人の心をこれでもかと擽る場所を僕はほかに知らない。どんなにいやな事があっても、僕はその周囲をぐるぐると走り回ることで、心のゆとりを取り戻すことができるのだ。
生活に疲れた心を癒す力を持つその場所を、地元大好きな僕が愛さないはずがない。
だが最近、公園の中に癒しとは正反対な不釣合いな物が聳え立つようになった。
それは、大きな大きなクレーン車だ。
そこに、一体何を建設しているのかと言えば……観覧車だそうだ。
自然溢れるそこに巨大な円状の鋼鉄製の構造物が居座るのを想像して、僕はなんだか馬鹿馬鹿しいような気持ちになった。
勿体無いな。景観が損なわれるからなくていいのに。
僕はそう思っていたのだ。あの光景を見るまでは。
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