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その日の夜、人工的な街灯と、神秘的な月明かりが共存する中で僕はいつも通りに走っていた。もうじき出場するハーフマラソンに備えて、本番とほぼ同じ距離を走るつもりで僕は二周するつもりだった。
軽快なリズムでコンクリートの地面を蹴って走る。汗を後ろに飛ばして、心臓をどきどきさせて。
その合間に少し視線をずらせば先端を蛍のように赤く点滅させたクレーン車。相変わらず風光明媚な景観の中で、一つだけ違和感のある物体だ。
そしてまた無機質なコンクリートに視線を戻そうとした瞬間に、それは起こった。
ジョギングシューズの底で感じる微小な違和感。ずううぅうん、という重低音が地面の下を走っているのを感じた。
それが近くを走る高速道路と幹線道路から感じる交通のせいではないと知っているのは、知覚したことのないものであるからだ。
地震でもなさそうなそれはなかなか収まらず、流石に気持ち悪さを感じて立ち止まって辺りを見回してみた。
何も変わりはない。同じようにジョギングをしている男も、立ち止まった僕になんの興味も示さずに脇を通り過ぎていく。道路を走るタクシーも、バスも、自家用車も、全てはいつも通りに通り過ぎていく。
しかし、異変は確かに起こっている。異常な振動を僕だけは感知している。地殻変動がきっと僕の足元で起こっている。
だが、しばらくそうやって立ち尽くしていると、その非日常な音の発生源が足元ではないような気がしてきた。
耳をすませば、全方位からであるような……そうではないような。
そうこうしている間に、徐々に音は大きなっている。当初は地鳴りだと思ったのに、今や自分がなにかの生産工場の機械の間にいるような、振動と、音が、それほどまでに大きく聞こえてきて……。
このまま誰も気が付かなければ、私は私自身の感覚器官の異常を疑わなければいけない。
しかしもはや、これは気のせいなどではない。
その証拠に異変に気が付いた他のジョガーが立ち止まり、辺りを見回している。この異音が感知することが正常である。もし、この状況でも何も異常はない、と断言する人間が居たとしたら、それはその人の耳や内耳の機能に異常を来たしているのだと説得するべきだ。
しかし、どこから聞こえるのか定かではない。
それが分からない。これは、一体何の音なのだろう。
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