ジョギングという名の、視察

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 しかし、私の探求心を擽るだけ擽ってその音は止んでしまった。遠くで犬が吠える音、車が走る音などの生活音を残して、静寂の夜に戻ってしまった。ジョギングを再開した女の人が、さっきの男と同じように私の脇を通り過ぎる。  しーん、とした夜。月に照らされて、立ちすくむのは私一人。  あの異変は何だったのだろう。痕跡すら探す事は出来ない状況にさせられて、私はしばらく後に諦めることにした。その直後。  ……どおおぉおん。  全ての音を薙ぎ払うような轟音だった。飛行機が目の前を掠めていくかのような、巨大な物が動く音。  私の目に映ったのは、幹線道路から射出されたナニカが、クレーン車というレールに乗って、大空に飛び出していった瞬間だった。  大きな塊、としか言えないような何かであった。その材質が木や土名だと言った柔らかい性質ではないことは確かだろう。鉄、鋼、金属。小体の知れない何かが、弾丸のように、大空へ向かって飛び出して行ったのだ。  すぐにそれは見えなくなった、大空の闇の中に溶け込んでいって、私の耳に残響だけを残してすっかりそれは見えなくなった。  何かを射出した後は、また、もとの観覧車という平和そのものを建造するためのクレーンに戻ったそれは、ナニカが起こる前と同じように天にむかってその腕を突きあげている。  私はそれは弾丸であったのだと確信している。  誰かがクレーン車というカモフラージュの元で、宇宙に向かって攻撃を仕掛けたのだ。重要なのは、飛び出していった弾丸が、何を攻撃する為の物であるが、ということだが、私はある程度の予想を付けることができていた。  狙われているのは、空に煌々と輝く月だ。それはクレーン車が向いている方向からして明らかなのだ。  弾丸はこれから三十六万キロを旅して、月を沈黙させるという使命を果たすのだろう。  だから、きっと明日辺りに、いつものジョギングを行ったところで、永遠に月の昇ってくることのない闇夜を走ることになる。  砕けた月の破片は、どこかに降り注ぐ。否、どこかではない。ここへ、やってくるはずだ。  彼らは宇宙の真空に飲み込まれることなく、破壊者への復讐を遂げるために、きっと、私達の元へ降り注ぐ。  流れ星となった復讐者は、きっとクレーン車を破壊する。  その想像は、私の退屈な日常を少し愉快にさせてくれ、私は楽しい気分でジョギングを行うことができたのだった。
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