第1章

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 均等に並ぶさほど個性のない高層ビル群の左端のビルの陰に、ひしゃげた月が隠れようとしていた。オレンジに点滅する誘導棒を惰性で振り続けながら、純一は、あの頃チョコとよく聞いたキリンジの『エイリアンズ』の歌詞を思い出そうとしていた。     まるで僕らはエイリアンズ・・・月の裏を・・・なんだっけ?     確か、「この星の僻地」ってコトバがあったよな・・・  海岸通りと山手通りが交差する陸橋上に設けられた土木作業帯。工事現場が路上を照らすグロテスクな赤い光が、品川と天王洲アイルのビル群の谷底を這う運河の暗い流れに瞬いていた。  ここは僻地だ。掘削機の振動を体中で感じながら純一は思った。     月の裏には、誰もいない・・・  桜の季節なのにこの時間はまだ肌寒い。純一は、あのホテルのベッドで抱き合っていたチョコの温もりを思い出そうとして、軽く目を閉じて腕をさすった。 「安田君、ユニック入るぞ!」  横沢の大声で純一は現に引き戻された。 「あ、はい・・・工事車両、入ります!」  周りをさっと見渡し誘導棒を高く掲げながら、車両の入り口を作るため、純一は点滅するカラーコーンを素早くどかした。 「アイツって、本当は外人ですらなかったんだってな・・・笑っちまうよなぁ」  発泡酒一杯で上機嫌になった横沢の声が安居酒屋に響いた。 「全く、身上が全部嘘で、その上、整形までして外人に成りすますって、どんな人生だよ・・・」  最年長者の佐々木が、吐き捨てるようにそう言って、グラスをちびっ、と傾けた。  品川港南口にあるチェーン居酒屋のテーブルを囲んで、中年から老年にいたる年の離れた4名が、夜勤明けの早朝にうら寂しく飲んでいる。それぞれが、最近ニュースキャスターを経歴詐称で退任させられて話題の自称「ジョン・K」氏の持つ爽やかオーラの対極のくすんだ色合いを身に纏っていた。  各々の脇には大きなかばんやリュックサックが置かれ、班長の横沢の布製のかばんからは誘導棒が露出し、濃紺の防寒用制服がはみ出していた。  純一は、自分がそんな集団の一員なことを苦々しく思いながら、うらはらに、同調するように口元を緩ませ、お通しの酢の物を口に入れた。
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