生はまこと不義に尽きる

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  慌てていつもの自分を たぐり寄せ、 表情を作った。 彼女らは私の顔など 見もせずに、 そそくさと帰り支度をして 足早に帰っていく。 その中に 藤原さんの姿も見つけて、 そんなものかと 溜め息が漏れた。 いや、 気にして欲しいなんて 気持ちはないけれど。 ただ、 落ち着かない。 そわそわしてしまう。 見慣れに慣れた この光景が居心地悪いなんて、 どうかしている。 “今日は、 ちゃんと僕から 迎えに行きますよ。 ……待っていてもらえますか” 桃さまの声が、 私の中にこだまする。 そう。 それだけだ。 今日いつもと違うことは、 たくさんあった。 けれど私の意識を 丸ごと塗り替えたのは、 桃さまの あの一言だけだ。 .
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