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その部屋は明るかった。
大きな窓があり、緑色の山稜が迫っていた。リゾートホテルの眺望のように、新鮮な光があふれ、白いレースのカーテンが風に揺れている。綺麗にメークされたダブルベッドがあり、サイドボードもある。
手枷と足枷は解除されていた。首を固定していたリングもない。
麗奈はゆっくりと上半身を起こした。
梶山雄一も起き上がった。
「ホテルの部屋みたいだ」
梶山は裸のまま部屋の中を歩きまわった。クロゼットの扉をあけて、2枚のバスローブを出した。
「やっと着れるな」
梶山はバスローブの一つを麗奈に渡した。
「雄ちゃん。去勢の意味わかってるの?」
麗奈はバスローブの袖を通しながら聞いた。
「ああ、戦いを回避する唯一の手段」
「去勢したら、女になっちゃうよ!わたし、そんなのイヤだからね。
何かほかの方法ないの?」
「女を抱くよりもっと素晴らしい事が待っているんだ。人間の性欲を抑制して、異性愛、同性愛の感情を抹消すること。そうすることによって、第2段階スマホロイドへの道が開ける」
「ちょっと、何よ!わたしがスマホロイドになるのを反対してたくせに、意味不明のこと言わないで!」
「第2段階スマホロイドは一般スマホロイドたちの統率者。僕はその候補に選ばれたのだ」
雄一の眼は、麗奈の肩越しの虚空を見つめていた。
「ねえ、しっかりしてよ。ここから出ることを考えるのよ!スマホロイドだって、普通の生活をしなきゃいけないの。わかる?」
麗奈は雄一の肩をつかみ、ゆすった。
「普通の生活だって? 普通とは何を基準にしている?スマホやAiに依存した世界か、それとも1970年代のような世界か。普通なんて、もはや存在しないよ、麗奈。インターネットとアプリケーションの時代は弱者を淘汰する。そうならないためにも、人類スマホロイド化は必要なんだ。僕たちはスマホロイドの黎明期にいる」
「違うよ。人間がAiに振り回されちゃいけないんだよ」
「人口知能が恋愛講座をし、小説を書き、将棋を指し、国家予算を管理し、国防も国民マイナンバーも管理している。人間は完全に奴隷化しているではないか。スマホロイドはコンピューターと共存できる唯一の方法・・・」
梶山雄一は熱に浮かされたように、ひたすらに口を動かしていた。
彼は洗脳されたのだ、と麗奈は思った。
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