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7月8日土曜日。
星望界大学キャンパス構内。
いくつも立ち並ぶ8階建ての校舎や丸いドーム型の研究棟。2階建ての事務棟、赤や黄色の花が咲き乱れる広い芝生。
薔薇のアーチ型の正門の横に、学生食堂<ジュピター>。
棕櫚の植え込みに囲まれたクリーム色の建物。
白い椅子と白いテーブルが並ぶ、芝生に面したテラス席。
テーブルの上には氷の浮かんだアイスコーヒーのグラスがふたつ。
グラスの水滴に二人の影が映っていた。
灰皿に置かれた煙草の煙が細い線を描いている。
一人は女子学生。白いブラウスに脚のシルエットが強調されるジーンズ、ストレートのロングヘアは腰のあたりまであった。顔は小さめで、利発そうな瞳とふっくらとした唇をしていた。
もう一人は、細面のツーブロックヘアに短い刈り込みを入れた若い男だった。カーキ色のカーゴパンツにチェック柄の半そでシャツ姿である。
「またスマホロイドの募集をしてたな。麗奈も応募したんだって?」
男が周囲を警戒する目つきで言った。
「うん、したよ。だって、便利でしょ。雄一のもしといたよ。みんな便利だって、評判いいみたいだよ。腕時計みたいのをつけるだけで、自分の眼がレンズになって撮影したり、頭で考えたことがメールできたり、ネット検索できたりするんだよ。外国語だって勉強しなくても、自動的の翻訳してくれるし、これって、チョー便利だよ。しかもさ、栄養バランスも面倒や病気の予知までしてくれるし」
柳下麗奈は額にかかった髪をかき上げた。結露したグラスを手に取った。
「レポートも楽だよ」
「カンニングしてるみたいだな」
梶山雄一は笑った。
「そうだね。あのね、実はスマホロイド研究室のスタッフがここへ来ることになってるの。施設まで案内してくれて、説明をしてくれるそうよ」
「なあ、麗奈。あそこはやめた方がいいと思うよ。今まで通りでいいよ」
「時代遅れって笑われるから。仮にも、星望界大学は科学の最先端を行くのよ」
「最先端じゃなくても、僕たちはこのままが一番いいよ。失敗したり風邪ひいたっていいと思うけどなあ」
梶山は小さく息を吐くと、麗奈の顔を眺めた。
麗奈は吸いかけの煙草を指にはさんだ。
火口が赤くなるまで吸い込むと、煙草を唇から離して揉み消した。
「わたしは最先端の技術者になりたいの」
強い口調だった。
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