たぬきからの脱出

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 その風貌からお察しの通り、ジェリーは探偵である。  しかし頭に(自称)のつく、いわゆる名乗った者勝ちの、そういうアレだ。 「私は極めて有能な、頭のキレる、エルィィィィトだからね!」  そんな彼が先述したように『話題の男』となっているのには、押すに押されぬ理由がある。 「『エリート』じゃなくて、『頼りない』の間違いだろ? ジェリーはどうも放っておけないからな。だからこそ、こうやって成功してきたんじゃないか」  そう。これまで依頼された数々の難事件を、ジェリーはもれなく“人の助け”によりまるっとずばっと解決してきたのだ。  しかし、そんな格好悪いことを、この男が公にするわけがない。 「私が解決した!」 「私のおかげ!」  そんなホラ話があっちに広がり、こっちに広がり、今では非常に有能な探偵であるともてはやされているのだが……実際のところは、皆様もお察しの通りである。 「真にできるオトコってのは、時に母性本能をくすぐりッ、しかしながら、最後はばっちりワイルドな魅力でキメッ! そういうものなの。わかる~? マスタ-」 「はいはい。そういうことにしておくよ、ジェリー」  酔っぱらいのたわごとを柔らかい微苦笑と共に聞き流しながら、マスターはてきぱきとグラスを磨き始める。 「もぉ~! 何、『そういうことにしておく』ってぇ~」  不服そうに唇を尖らせながらも、ジェリーは上機嫌だ。へらへらと笑ってヒゲの浮いたあごを撫でている。  氷によって少しずつ薄まっていく水割りのおかげで、彼は今日もいい感じに酔っていた。
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