そして、僕はヒーローをやめた。

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アオイは高校卒業後、私立大学へと進学した。 俺は本物のヒーローになるなんていう夢を持ってしまったから、演劇の専門学校へと進むことにした。 初めて、アオイと別々の道を歩むことになった。 それでも俺たちは相変わらずだった。 時間が合わなくても家が隣なので、よくお互いの部屋の明かりが点いているときにどちらかがベランダに出れば、それに答えるようにふたりともベランダに出た。 一定の距離感を感じながら俺たちはそこで顔を合わせて会話をした。 今までは家を行き来していたものだから、こんなベランダの活用方法を思いつかなかった、なんて言って笑い合う。 「シュウヤと離れるのって初めてのことだから、最初は大学生活が違和感だらけだったよ」 「最近は慣れたのか?」 「うん、楽しいよ。 シュウヤは?」 「まぁ……変な人多いけどぼちぼちやってるよ」 「ふふ! 楽しそうじゃない。 本当のヒーローになる為に今はわたしのヒーローは休業だね」 「は? 何でだよ」 「だって、遠くにいるシュウヤに助けを求めたら迷惑になっちゃうもん」 「バーカ。 ヒーローっていうのはな、いつでもどこにいても、助けにいくもんなんだよ」 俺がそう言うと、アオイはベランダの手すりに頬杖をついたまま、いつものように嬉しそうに笑った。 そうこうしているうちにあっという間に月日は流れ、そしていつの間にか 俺は全てを挫折して、家から一歩も出なくなった。
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