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恐る恐る、缶の中身を手のひらに乗せた。
そこには、丸くて黒い小さな塊が二つあった。
見た目、小石のように見えなくもない。
だけど、私の脳裏にはこれが、人の「目」のように見えた。
ふと、背後から強烈な視線を受けていることに気づいた。
私の体がまた恐怖でぎゅっと縮まる。
「ないないお姉さん」がすぐそこにいるのがわかった。
動けない私の手のひらに青白い手が視界に入りこんだ。
そして、丸くて黒い小さな塊を拾いあげる。
『ああ…これで全部』
耳がぞわぞわする高い声。しかし、そこには悲しさも苦痛もなかった。安堵と喜びの声に私は聞こえた。
『ありがとう。ようやく逝けるわ』
ひんやりとした、空気が私の背中を覆った。彼女の今できる精一杯の感謝なのだと私は感じた。
愛した人に裏切られ、恐ろしい死を遂げ、それでも安らかに眠れず、一人自分の体を探し続けた。きっと寂しかっただろう。苦しかっただろう。今の彼女ではもしかしたら、缶を拾い上げて目を取り出すことはできなかったのではないか…。だから、誰かに探して欲しかったのかもしれない。
それは本当かどうかはわからない。私は彼女の事を知らないし、その真意も知らない。けれど、どうしてだろう。どうして私はこんなにも泣いているのだろう。
やがて、私を覆うひんやりとした空気はゆっくりと消えていった。
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