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草木も眠る丑三つ時、なんて言われていたのはもう何百年前のことだろうか。
<眠らない都市>トーキョー・シティ、その一角、時代に置いて行かれ、寂れたビルの屋上に伏せながら、男はそう考えていた。
その男は黒目黒髪の、まだそれほど年を取っていない男だった。
夜の闇に紛れる黒いフード付きのコートを着て、耳元には通信用のマイク、手の中には、光学銃の普及している今時ほとんど見ることのない骨董品。
凶悪に黒光りする鋼鉄の塊、十年来の得物である実弾スナイパーライフルだ。
正式名称は彼も知らないが、ただライフルと呼んでいる。
彼はもう二時間も前からここでスタンバイしている。
じっと、相棒からの通信を待ち続けている。
正直寒いから早くしてくれとも思うが、焦って的を外しては元も子もない。
故に彼はその時をただじっと待ちわびるのである。
そこからさらに数分、男の耳元で、「あ、あー、聞こえるかい?」と、ややハスキーな女の声がした。
「あぁ、聞こえる、問題ない。」と、返事を返す。
女の声は続けて、
「オッケー、じゃ、手短に話すよ。
今回の標的は情報通りのルートを進むから、そこで待機で大丈夫だよ。
で、顔、身長、手術跡、心拍体温網膜照合、ありとあらゆる面から考えて本人確率99、99%って所だね。
標的はキクヤマのロデムの後部座席に座って、時速60キロで一定の自動運転……まぁ標準並みだから、そんな警戒する必要はないかな。
御供は二名、標的はそれに挟まれる形で座ってる。
それで、計算上君のライフルなら発射後1、287秒でガラスに着弾、今回のは対光学銃用ガラスだから抵抗は無視できるよ、磁界バリアーも無しだから安心してね。風速はそっちで計測して。
あ、いつもの事だけど撃ったらすぐ離脱していつもの場所ね、ボクも後で行くから。
じゃ、通信は丁度目標地点通過一分前に切れるよう設定してるから。
グッドラック!」
いつもながら全然手短ではないのだが、必要なことだしそれを言うのは野暮だろう。
そんなことを考えながらも体は勝手に風速の計測を始める。
…西に3mか。
銃口の向きを微調整、後は精神統一。
気が付けば通信は切れていた。
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