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猫耳パーカーの影は、アタッシュケースを振り回しながら帰路に就く。
今日の仕事は結構美味しい仕事だった。
ケースや中身に仕込みが無いのも確認済み。
思わぬ報酬の高さに影の口元も自然と緩み、鼻歌を口ずさんでしまう。
軽い足取りで隠れ家へとたどり着く。
追跡は無し、相棒の彼は先に帰ってる。
待たせてしまったかな、と考えながらビルに入りそのまま地下への階段を下る。
階段の先の鋼鉄製の扉、に見える自動ドアを決まった調子でノックする。
コン、コン、コココン、コンココ、ココン
するとあら不思議、厳めしい鋼の大門はあっさりと右にスライドする。
…実はこれ、横開きなのよね。
部屋の中では、既に一人の男性が古びたソファーに座ってくつろいでた。
彼の肉体に支障が無いことを確認しつつ、影はパーカーを脱いで男に呼びかける。
「ただいま、オトナシ。」
「お帰り、シドウ。」
シドウと呼ばれた、パーカーを脱ぎ捨てた影ーーショートカットで鈍色の髪と瞳を持つ、幼さの残る顔立ちの美少女だ。
まぁ、実年齢は男と大差ないのだが、むしろ年上。
オトナシ、と呼ばれた方も、着ていたコートを脱ぎ、顔を晒している。
黒ずんだ肌、血や油が染み込み、べたつきテカっている黒髪、痩せてはいるが割かし整った顔、しかしその目は野心と生命力でギラギラ光っている。
「上手くいったのか?」
低く重たい声、だが、その声には心配が見え隠れしている。
それに対し、シドウの方は底抜けに明るい声で、
「うん!大成功さ!
値切られることも無かったし、嘗められるようなこともナシ。
オマケに今日の報酬はいつもの二倍、2000万だよ!?」
「ほぉ、それは太っ腹なことで。お前の事だから先に検査も済ませてるだろうし、何の問題も無いな。
……それで、今、いくらだ?」
そう聞かれると、シドウは多少声のトーンを落とし、
「大体74億5874万イェン、だね。十年かけてもまだまだこんなもんさ。」
「そうか…遠いな。」
「遠いね。
……ま、今日はもういいじゃない。
おとなしく、盛大に成功を祝おうじゃないか!酒も買ってきたよ!
……んじゃ、本日の成功を祝し、乾杯!」
俺のは?と彼も笑っていた。
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