第三幕:救出の準備は迅速に

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「ちょっと手伝え。」  キーボードに向き直ったオトナシが、画面から目を切らずに少女に呼びかける。 「…何をよ。」  返事はせず、携帯電話と電話番号を走り書きした紙を投げ渡す。 「…これは……携帯電話ってやつ!?……オトナシ、あんたいつの時代の人間なのよ…。」 「こっちじゃ最新だ、いいからさっさとかけろ。」 「ちょっと待って、えーっと……」  たどたどしい手つきで電話番号をプッシュしていくユヅキ、携帯電話など初めて見たに違いない、五百年前には絶滅したと言われていたからな。裏ではひっそりと生産されているが。 「…できたわ!!」  どうだ、と胸を張る少女、電話一つで大げさな。  無視して少女の手から電話を奪い、肩と頬で挟むようにして電話の主を待つ。その間にも指は止めない。  コールが三回なった辺りで相手が電話に出た。 「はいもしもしぃ、こちらアンプルールですぅ、何の御用ですかぁ、オトナシさぁん?」  何故分かるのだろうか、オロチ、恐ろしい奴。 「話が早いな、手ぇ貸せや。」 「高いですよぉ?」 「奇遇だな、こないだ大金が入ったばかりだ、払えるだけ払ってやるから手伝え。」 「大きく出ましたねぇ、まぁ良いですよぉ。あ、それと、シドウさんから伝言ですよぉ。  ゴメン、捕まった、逃走は何とかするから後ヨロシク。  以上でぇす。」  逃走についてはもう定まっているようだが、その先に何を見てるのか。  それと、何気に似てたのが腹が立つ。 「…で、ワタシはどうすればいいですかぁ?」 「そうだな、シドウの様子を探ってきてくれ、それと、ハッカー・クーンに連絡を頼む。」 「かしこまりましたぁ。」  その言葉を残して通話は切れた。  外の街には三種類の人間がいる。  一つは、ただの浮浪者。  もう一つは、徒党を組んで生活するヤクザタイプ。  最後は俺達やオロチのような、特異な能力を生かして少数で生きる者達だ。  そして、今回協力を要請したハッカー・クーンも俺達と同じ部類の人間である。街のどこかでひっそりと生活し、朝から晩まで画面に向かって何かしらの情報を漁っている変人、実際に会ったことは無いがその腕前は有名だ。
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