第三幕:救出の準備は迅速に

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 電話を切って一分もしない内に、今度は喧しく振動し始めた、メールだ。  即刻開いて確認すると、差出人は見たことの無いアドレスだった。 ”こちら、H・K、仕事は一律二〇〇〇、OK?”  こちらのメルアドは教えていないのだが……オロチか?あいつが知っているというのも恐ろしいが。  逸れた思考を修正しつつ、H・Kなる人物にメールを返す。 ”OK、仕事内容だが、可能な限り早く政府機関のデータベースから殺し屋シドウの捕縛に関する情報を抜き取ってほしい、それと、一機、中の飛行カメラの乗っ取りもお願いしたい、こちらの期限は追って連絡する。”  この内容で送り、三十秒しない内に返信があった。 ”それは仕事二つ、4000、OK?”  今更惜しむ金なぞ無いオトナシは二つ返事でOKと送った。金さえ積めば何でもやるとはマブネタだったようだ。飛行カメラの乗っ取りに何の文句も言わない自信も持ち合わせていると見た。  メールを終え、ハッカー・クーンが協力してくれる以上ここのコンピューターをいじる理由も無くなった、オロチからの連絡が無ければ打つ手も決まらず、手持ち無沙汰になったオトナシ。  どうする?寝とけ。   決断早く、椅子の上、前の持ち主は腰が悪かったのか、無駄にフカフカで低反発な椅子の上で目を閉じたオトナシ。仕事前は寝れる間に寝ておくのが鉄則だ。 「ちょ、あたしはどうすればいいのよ!!」  放置された人質の少女が喚く。オトナシは煩わしそうな声音で、 「どっかにベッドがあるだろ、そこで寝てな。」  と言い残して夢の世界へと旅立った。  一方、寝とけと言われてもどこに何があるか分からないユヅキ、変に触って罠を起動させハチの巣、なんてことになりかねないので動けない。進退窮まった。  そんな困っていた彼女だが、あるものを発見した。  オトナシがキーボードの下に放り投げた地下通路の地図だ。  これがあれば地上へ脱出し、マシンナーズなり政府の兵隊なりに助けを求めて街へ帰ることも可能、チラッと外での生活を楽しんでいた自分が彼女の脳裏を過るも、首を振ってその自分を追い出した。  無理やり喜びを作ってドアへ向かうユヅキ、だが悲しいかな、番号入力は指紋認証も兼ねていたのである。  こうなればもう床で不貞寝しかなかった。
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