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「……なら、せめて説明しなさいよ、あんたはパパに何の恨みがあるっていうの?」
不承不承といった感じで聞いたユヅキ、オトナシは、
「そうだな、道すがら語ってやるよ、どうせ外に出るまで長いんだ。」
そう言いながらコンピューターをシャットダウンさせた。
オトナシは手に愛用の解体したライフルの入ったバッグだけを持ち、ユヅキは鎖の重量が結構あるはずだが口答え一つせず黙々と歩いている。
だが、やがて沈黙に耐えきれなくなったのか、ユヅキが口を開いた。
「……そろそろ話しなさいよ。」
「そうだな、何処から話そうか。……まず言っておこう、俺も真相の全ては知らん、だが、その知っている部分だけでも十分な動機になりうることだ、向こうにどういう思惑があろうが知ったことか、事実は残っているんだ。」
「はぁ?」
当然、これでは彼女は何を言っているのか理解できないだろう、だが、そんな些細なことは気にしない、と独白の様に話し続けるオトナシ。
「あれは、…もう20年近くも前か、俺は中で暮らしてたんだよ。」
「なっ!!?」
ユヅキにとっては衝撃の事実だったのだろう、中から外へ放逐されることは偶にあることだが、その殆どは三日以内に死亡すると言われているからだ。死因が自殺にせよ他殺にせよ、中のブルジョワにはまず生きることが難しい環境なのだ。
20年前ならば、彼はまだおそらく齢一桁の子供だったはずだ、生き延びるなど不可能と言っても良いだろう。
「中と外を分ける法律があるだろ?」
「……ええ、あるわね。」
「あれに反対していた議員が一時期不祥事やら不幸な事故やらで一斉にいなくなったって話は聞いたことがあるか?」
「……知らな………え、ま、まさか!!?」
察しの良い子だ、やはり頭はキレるんだろう。
「察したようだな、ちなみに、その法案を推してたのは人民、……当時メキメキ頭角を現してたお前の親父が発案者だったらしいな。」
ユヅキの足が止まった。唐突に尊敬する父親の裏側を知らされたのだ、彼女の心の中で何かが音を立てて崩れていく。
「おいおい、足を止めるなよ。まだまだ序の口だろうが。」
そう言い聞かせても動かない、完全にショートしてしまっている。
だが、まだまだ本当に序の口なのだ。
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