第四幕:一番の被害者

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 五分ほどだろうか、ユヅキが細々と呟いた。 「……それが事実である証拠はあるの?」  おそらく彼女の中では既にほとんど確定なのだろう、だが聞かないでもいられない、といったところか。  問われたオトナシは胸ポケットからゆったりと小さな録音機を取り出した、ユヅキの鎖にくっついている物とは違いかなり古いタイプの物だ。 「ここにある。20年前の、生きてた頃の親父が残した音声だ。それに、過去のデータを漁れば当時の記事なんかは出てくるだろうさ。」 「……それ、聞かせてくれる?」 「最後にな、まぁ聞け、てか歩け。」  オトナシが少し強めに言うと、縛られた少女はゆっくりと歩みを再開した。 「親父はな、当時友愛の議員だったらしい。ガキだったから親の仕事についてしっかりとは知らなかった、ただ偉い人だって聞いてたな。  で、さっき話した法案が上がった際、友愛は必死に通すまいとあれこれ画策してたんだと、よっぽど色々やったんだろうよ、邪魔になって人民が潰しにかかる程度にはな。」  これは後日、もっと成長してから聞いたんだが、とオトナシは付け加えた。 「そんで、何でそうしたかは分からんが、人民は議員個人個人を狙った。」  後ろでユヅキがビクッと震えた、鎖の擦れる音がした。 「ユヅキ、国の濡れ仕事専門の特殊部隊は知ってるか?」 「…何よそれ、聞いたこと無いわ。」 「そうか、ま、いるんだよ、そんな奴らが。で、そいつらに邪魔者の始末を命令したんだな、あの屑共は。……かなり聞いてるぜ?通り魔を装ったり、轢き逃げしたり、痴漢の濡れ衣を吹っ掛けたなんてのもあるな。」 「……あんたのお父さんもそれに巻き込まれたの?」 「そうだな、まぁ、親父の場合は横領の冤罪に問われたんでそいつらは関係ないんだが、ガキにゃ分かんねぇよなぁ、自分の父親が今どんな状況なのか。」  まるで他人事のように語るオトナシ、しかしユヅキは彼の中に燃える憤怒の焔を見た気がした。 「だが、お袋はそのショックで寝込んじまって、親父は議員をクビになり、バカなマスコミがあーだこーだと有る事無い事騒ぎ立てる、日に日に親父はやつれてって、精神もおかしくなってった、らしい。」 「…らしい、ってどういうことよ。」 「だってな、俺から見た親父の心は健常だったんだよ。」
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