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ポカン、とアホ面を晒すユヅキ、幸いと言うべきかオトナシは見ていない。
「親父、精神がすり減ってはいたんだろうけどな、自我はしっかり保ってて、俺らにも変わらず接してくれてたしな。」
「俺ら?」
不思議そうに聞くユヅキ、もしやシドウの事だろうかと想像する。
「あぁ、弟がいたんだよ、二つ下の。」
その人はどうしたのか、そう聞きたかったが憚られた。答えが予想できてしまったからだ。
黙ったユヅキを訝しんだか、少し問うような口調でオトナシは話を続けた。
「…続けるぞ?
親父が冤罪吹っ掛けられて、弱ってった話はしたな?そんで、親父だがな、一般には自殺したって言われてる、このせいで精神を病んでたんじゃないかって話になってる。」
余りにもあっさりと自分の父親が死んだと告げたオトナシ、人質の少女の目にはその姿が狂気を帯びているようにも、深い悲しみをたたえているようにも見えた。
「だが、こっちにはさっきのウェットワーカー共が絡んでる。言うが、家に火を点けたのはあいつらだ、人民の奴らの、いや、その時に始末の全権を所持していたお前の父親、ミカゲ・ゲンジの指示でな。生かしておいては面倒だったんだろうさ、俺ならそうする。」
とうとう自分の父親の名前が出てきた、なるほど、これを聞く限り父親への復讐の動機は筋が通っているように思う。
そうは思うが、譲れない一線は未だ十四の少女にもしっかりと存在するのである。
認めたくない、と言うようにオトナシに質問を投げかける。
「……ずいぶん詳しいわね、どうやって調べたのよ。」
「なに、優秀な情報屋の知り合いがいてな。」
納得のいく答えでは無かった、いくらでも反論は浮かんだ、だが、それらは喉に詰まったように口からは出てこなかった。
「で、親父が死んだショックでお袋も発作起こして死んじまった。……知ってるか?街の中の身寄りのないガキは外へ追い出されるんだぜ、生きてけないと分かっていても、な。」
ユヅキもこれは知っていた、街の中に孤児院が無いのは有名な話だ。だが、本当に追い出してしまうとは思ってなかった。
「で、俺らは外に捨てられた、親父の遺品のコレとナイフだけ持って、な。」
そう言い指で録音機をいじくるオトナシ。その顔は見えなかった。
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