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だが、オトナシは一つ教えてくれていないことがある。
「……あんたの弟さんは、どうしたのよ。」
予想はしていた、ただ、それを信じたくは無かった。
「殺した。」
こんな救いの無い答え、望んでいなかった。
ユヅキにも分かっている、少し考えれば自ずと導き出される回答だ、だが、それは、それでは余りにも……。
「俺が出て来たとき、確かまだ俺も六つか七つだった、弟はそれより二つ下、大人一人でも生き難い世界、年端もいかないガキが、更に幼いガキの面倒を見ながら生きて行けるか?否だ。」
純粋な少女には、その声がどこか言い訳じみて聞こえた。
「だから、殺した。殺して、その死体はどっかの変態に売った。いくらになったと思う?」
自嘲気味な問い、ユヅキは答えられなかった、だが、答えが返ってこないと悟ったか、
「5万、たった5万だ。愛する弟の命一つが、だぞ。」
ユヅキは驚くほど安いと思った。しかしこっちではそれでも破格なのだ。外における浮浪者の命はパン一つより軽い。
「その金を受け取って、まずは住む場所を探した。人目に付かない廃ビルの奥で息を殺してひっそりと生きてきた。生ごみを漁り。通りがかった人間を闇討ちして金目の物を奪い、闇市の食べ物を盗み……いろんなことをやってきた。
信じられるか?ほんの数日前まで中で暮らしてたガキだぜ?」
自分でもできる?無理だ。ユヅキはすぐにそう判断した。
「……オトナシ、あんた、生粋の悪党なのね……。」
少女自身も信じられない程か細い声だった。だが、彼には聞き取れたらしい。
「そうだ、そうでも無きゃこっちじゃ生きて行けなかった。
だが、いくらなんでも限界はある、知ってるか?人間は生きる目標が無いと生きて行けないんだぜ?こんなとこじゃ特にな。
当然俺も折れかけた、その時、これを思い出したんだ。」
そう語って手の録音機を再生するオトナシ、古い機械特有のひび割れた音をさせながら彼とは違うしゃがれた声が流れてきた。
”聞こえるか、ケイ、シン、お父さんだ。
お父さんはもうダメだ、きっともうすぐ殺されてしまうだろう、だが、お前達は生きろ、生きて、お父さんを殺した奴を殺してくれ。
…………すまない、こんなことしか言えないお父さんを許してくれ。”
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