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「……あたしだけって、何でよ、どうせやるなら一家丸々カバーしなさいよ。」
歩みを再開しながら聞いたユヅキ。
「必要無い、こっちに来るのはお前だけだからな。何でかってのは、まぁ、罪滅ぼしか?今回最も迷惑をこうむったのはお前だし、このぐらいはな。」
これ以上無いくらい心底嫌そうな顔、やはり抵抗があるようだが今度は怒鳴らなかった。
「あたしだけってどういうことよ、パパは無理でも、お兄様がいるわよ。」
「そのお兄様はムショ行きだってことだよ。」
その言葉に驚きを隠せない様子、彼女からすれば兄は誠実な人間だったのだ。
「裏じゃ結構色々やってるみたいだぜ、お宅の男勢は。…ま、そういうことだ、母親は亡くなってるし外に来るのはお前だけ、ガキ一人の面倒を多少見てやってもバチは当たらんだろ。」
「………信じられない。」
それは心からの言葉だった。彼女にとって先程のオトナシの語った父親の粛清と比べても遜色ないほどの衝撃だったらしく、表情が凍り付いている。そのまましばらく黙っていたが、
「………一家崩壊なのは変わらないのね。」
やがて、疲れたようにそう零した。
「ふん、人の一家をぶっ壊しといて自分は御咎め無しなんざ虫が良すぎなんだ。因果応報、何時の言葉かは知らねぇがその通りだよな、自分の行為が原因で同じ責め苦を与えられることになるんだから。」
「……もう、何も言わないわ。言っても無駄だもの。」
ユヅキはそれっきり何も言うことは無く、オトナシも空気を読んだのか黙って歩みを速めた。
両者黙ってからおおよそ一時間か、ようやくのことで出口と思われる梯子のもとへやってきた二人。だが、ここで一つの大きな問題が発生した。
「……ねぇ、これあたし登れないんだけど?」
腕まで雁字搦めにされたユヅキは梯子が登れないのだ。
刹那、オトナシは悩んだ、このまま鎖を外して良いものかと。当然外すしかないのだが、折角縛ったのに、と抵抗感があった。
「早く外してくれない?」
と、ユヅキが急かしたこともあり、渋々オトナシは鎖を解いた。その際機械を潰さないように注意した、爆死は勘弁だ。
梯子を上り、マンホールの一つからひょいと頭を出したオトナシ、そこには、お待ちしてましたぁ、とにやつく情報屋が待っていた。
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