第一幕:危険な依頼は唐突に

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 さて、出かけようかな。  パーカーも着たし、仕込み銃とかの弾薬も補充した。  彼には手紙をそのまま置いておけば理解してくれるだろう。  その程度にはお互い分かりあっている。  クライアントとの交渉は基本的にシドウの役目である。  サイボーグの体は大抵の刃物も銃弾も弾き返せるし、金属の目は他人の表情から嘘が読める、オマケに一目見れば仕込まれた爆薬とか発信機も見つけ出すことも可能。  戦闘能力に関しても、彼女は近接での戦闘なら銃持ちで生身の人間二十人にも勝てる自信を持っている。  それに対して、オトナシは生身の人間だ。  決して弱くは無いのだが、銃弾一発でも当たり所によっては致命傷、多人数戦でも三対一、それも銃無しが限界だ。  お互いにそれを解っているし、そのことについて両者余計な口出しをする気は無い。  ただの役割分担だ。  今回の手紙の主はなじみの情報屋、その情報に関しては全幅の信頼を寄せているが、その人間性に関しては全く信用していないためシドウは気を引き締める。  下手に要らないことを話して余計な情報をすっぱ抜かれでもしたらたまったもんじゃない。  そう思ってはいるのだが、やはり礼儀として幾ばくかの挨拶はしなければいけないし、その短い間でも何らかの情報を掴んでいく、シドウ達にとってはこの上なくやりにくい相手なのである。  彼奴との待ち合わせ場所などは特に書かれていなかったが、どうせいつものバーに入り浸っているだろう、と勝手な予想を付け、時速一二〇キロで目的地に向けてかっ飛ばす。  ちなみに、彼女は走っているだけである。  血だまりや腐臭の漂うナニカやギャング共の抗争の合間を突っ切って、件のバーへ直線距離を突っ走ってきた、途中にあった物は全部轢いた。  退かなかったあいつらが悪い、とあまりにも身勝手な結論をはじき出す事コンマ0秒、たどり着いたバーの戸、既にひしゃげ、どう見ても開きそうにないそれを力づくでこじ開ける。  吹き飛んだ扉がたてる轟音を聞き流し、あらゆる物が破壊され、所々に血の跡があるバーの中の生体反応を確認する。  …反応、ナシ?  …いや、そもそもバーがこんな惨状になっていることがまず予想外なのだが。  一週間前に来た時にはまだまともな内装だったはず。
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