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あの青年のことを忘れかけていた夜のこと。どこからかそよ風が吹いてきて町長の頬を撫でました。
何とも心地の良い母の手のような柔らかさと温もりを持ったどこか懐かしい風でした。
いつだろうか、あぁあのネズミの日のとき吹いた風……
そこまで思考が行き着くと町長さんは目を見開きました。
部屋は赤く紅く燃え上がり、ドアを開くと青年と面会していた部屋は崩れ落ち外へ出るドアは焼け落ちた棟木によって埋もれていました。
なぜこんなことになるまで気が付かなかったのだろうと町長さんはひどく焦りました。
そしてネズミのことを思い出しました。
ネズミたちも操られていたのだと、自身の手なずけなど意味がなかったのだと町長さんは真髄に至りました。
焦った町長さんは窓から外の様子を見ようとしました。
しかし、外は夜にも関わらず赤く明るかったのです。
「あぁ、あの青年が。なんて事だ、ワシの町が……」
町長さんは絶望に染まった表情で膝から崩れ落ちました。
「逆らってはいけなかった。奴に、あの魔王に……」
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