担当

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担当

 ナビは何度も見返した。手持ちのロードッマップも今見てる。  でも、どこにも目的の家がない。  宅配ピザ屋でのバイト。注文品を届けに来たのだが、家がある筈のその場所は、周辺含めて草ぼうぼうの空き地だ。  ナビは確かにここを差しているし、地図の地名もここいらだ。それでもどこにも家がない。  仕方がないので店に電話を入れ、状況を話したら、店長にすぐ戻るよう言われた。  店に戻ると、すぐさま店長が俺に詫びてきた、聞けば、住所の伝え間違えだったらしい。  実際の注文相手の所には、別のバイトがもう向かったという。  丁重に詫びられたこともあって、この話は店長のちょっとしたポカという形で終了した。  それから二ヶ月ばかりが経ったある日。  宅配先から店に戻ると、入れ替わりにバイト仲間が出て行くところだった。  ナビに目的地を入れている。その住所に覚えがあった。  二ヶ月前、俺が散々探して見つからなかった家だ。  注文を受けた際、名前と住所、電話番号を登録しているが、もしや、住所の訂正がされていないままなのか。  咄嗟にバイト仲間を呼び留め、そこの住所は空き地だと告げる。でもそいつは『そうなんだ』と一言残して宅配に出てしまった。  向かったところであそこには何もない。空振りになるだけだ。そう思い、俺は店長に、バイト仲間が以前空き地だったあの場所へ向かってしまったことを告げた。すると、店長はしばらく困ったような顔を見せていたが、やがて意を決したかのように、俺にとある話をしてくれた。  注文を受けたはいいが、実際そこに配達に行くと家がない。このテの注文はたまにだがあるらしい。  でも、さっきのアイツが配達に行った場合だけは、無駄足になることがないというのだ。  最初は、どこかにピザを捨てているのではと疑ったらしいが、同じ登録住所から再度注文が来るし、そもそも確実にお題を受け取って来ているので、それはないだろうと判断したらしい。 「以来彼は、『そういうお客さん』の『担当』なんだよ。ただ、本人に自覚は泣いたみたいだから、この話は内緒で頼むよ」  店長にそう懇願され、俺はひきつった顔で頷いた。 担当…完
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