天窓の追想

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娼館の生活はひどいものだったが、少女を苦しめたのは喪失感だった。 父親の死を充分に悲しむ間も無く、自身の魂を殺されたのである。 教育係の少年に犯された翌日のことは、忘れることができない。 とても美しい朝だった。 晴れた空の向こうで小鳥が歌っている。 窓に光のカーテンがたなびき、細かな埃や塵がきらきらとその中で踊っていた。清らかな朝日を浴びながら乱れた寝台の上で放心している少女だったが、身体を内側から掻き毟りたくなるような衝動を抱えていた。 神様が作ってくださったこの身体が、髪の先から爪先まで、見た目はまったく同じでもまるで違うものに作り変えられてしまったような気がした。 それはとても脆くできていて、客と寝る度に体の一部が欠落していくようであった。 父親が恋しくなる時もあるが、吐き捨てられた欲望に塗れた自分を父が見たらどう思うかと考えると、祈りを捧げることすら躊躇われる。 天窓を通じて美しい思い出を映し出す時だけが、少女の心のか弱い支柱だった。
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