episode1. 迷いの森

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「はぁ・・・・・・」  自然とため息が出る。この世界に来てもう1年も経つ。何も出来ないまま時が過ぎていく。魔法も使えない、と言うか唱え方を知らないし家もない。野宿生活から脱出したいが為すすべがない。  武器も防具もなくお金もない。食事は川魚をどうにか捕って食べるか木に実っている果物みたいなもので凌ぐ。そんな状態でお腹は満たされることはなく照りつける太陽の暑さでやる気も出ない。お風呂は川で済ませている。時々、水を飲みに来る魔獣がいるからそれには気をつけながら。 「暑すぎる」  少し前に迷いの森と呼ばれる場所でさ迷っている私。どうして迷いの森と分かったのかは、ボロボロの地図を拾って此処に来たからだ。森なら多少何か食べ物はあるだろうと思ったから。  しかし、さすが迷いの森。完全に迷ってしまった。 「暑い」  暑いしか出てこない。この暑さを凌ぎたいのに迷ったなんて。5月の気候としては可笑しいんじゃないってレベルで暑い。 「もうっ・・・!」  何も出来ない自分が不甲斐なく苛立ち情けなくて足元に落ちていた石ころを投げる。 ───ガッ! 「え・・・・・・」 ───グルルルルルゥゥ……  どうしよう、非常にまずいことになった。細心の注意を払っていたのに、少しの油断でこんなことになるなんて。とにかく逃げよう。 「っ、ゴブリン・・・!」  ゴブリンは普通の人間なら難なく対処出来る魔物。でも私にはどうにもすることができない。 「はぁ・・・はぁ・・・」  足の遅い自分にも情けなくなる。こんな時、魔法さえ覚えていたら使えてたら倒せれたのに。そんな事が頭をよぎるが今考えたところで仕方ない。逃げる事だけを優先しないと。  ふいに微かな柑橘系の匂いと視界の端によぎった黒い影に足を止める。 「ブラック・ダウン」 「グキャァァァァアアア!!」 「え・・・・・・」  追いかけてきていたゴブリンが溶けていく。溶けたゴブリンの向こうには男性が立っていた。
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