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白い天井を仰ぎ見て、僕は安堵の息を吐く。また成功だ。また、戻ってこれた。
薬品の匂いにも、固いベッドの感触にも、味わい甲斐のない食事にも、もうすっかり慣れた。何の違和感もない。病院生活での唯一の癒しである白衣の天使達すら新鮮だと思えなくなってしまったから、その点だけは自分を哀れに思う。
「ったく、ガキの頃から思ってたけど……本っ当に、危なっかしいんだよっ! お前って奴はっ! 死にかけたの、これで何回目だ!?」
仕事帰りに見舞いに来てくれた幼馴染みが、怒りと呆れを混ぜ込んだ顔で僕に問いかけた。
「うーん、正確には覚えてないけど……とっくに十は超えてるだろうね」
「通り魔に刺されたり、海で溺れて窒息しかけたり、マンションの階段踏み外したり……どれもこれもギリギリで助かったからいいものの……今回だって、火事に気付かずに逃げ遅れたんだろ?」
「そうだね。仕事から帰ったばっかりで、疲れて切って熟睡してしまってたから。起きた時には完全に炎に囲まれてたよ」
「はぁ……お前、つくづく不運だな」
病室を訪ねては、誰もがいつも、哀れみ混じりにそう呟く。誰もがいつも、同情めいた優しい眼差しで、僕を見る。
だけど、僕は笑う。
「いやぁ……これだけ危ない目に遭っておきながらいつも助かるんだから、むしろ幸運なんじゃないかな」
そうだ。僕は運が良い。だから毎回死なずに済むんだ。 戻ってこれるんだ。
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