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夢。
脳内に夢が映る。
『××、ねえ、何を食べているの?』
ここは恐らく教室だ。赤い太陽の光が差し込む場所には、『××』という今僕が話しかけた女の子と、酷く貧弱そうな男の子(たぶん僕)しかいなかった。
何でそれが僕だとわかったのかがわからないけれど、それは夢だからとしか言いようがない気がする。夢だから、何でもわかる。
本当はここが教室であるわけないし、目の前にいる女の子の名前なんかわかるわけがないんだ。
夢。
僕のアタマは今夢を見ている。
『ん? ×××、これ食べたいの?』
『××……その名前で呼ばないでって言わなかったっけ』
『じゃああんたも×××って呼ばないでよ』
女の子がそこで食べていたのはひとつのクレープだ。
『なんかさっき友だちがくれてね。私には合わないから~って。恩恵に預かって今食べてたところ』
『へえ』
『いる?』
『いや……いいや』
『なに、食べなよ』
『しょ、食欲がないんだよ』
『あんたいつもそれじゃない。どうせ今日も何も食べてないんでしょ』
『…………』
『はい図星ね。まったく、そんなんだからひょろいのよ』
僕らは似ている。
自分たちよりも優れたひとたちの“名前”に縛られているところ。
そして彼らは僕らを置いていった。僕らに越えがたい壁と傷跡を残して。
彼らと同じ名前という傷跡。
それは彼らと同じことを期待されているという証。
その高すぎる壁を彼女は無視して歩き始め、僕はと言えば見上げたまま動けないでいた。
そういう設定の夢。
ただの夢。
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