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「ねえ、ユウ」
「何、コウ」
僕はあの後再びお見舞いに来た女の子と自己紹介をした。
彼女の名前はユウというらしい。漢字は尋ねてないのでわからない。
僕は名乗らなかった。彼女が知っていたからというのもあるし、そもそも僕は自己紹介が苦手なのだった。
「君、『ハルカ』って名前知ってる?」
僕の左腕から伸びる点滴の管。
垂れる液体。
「……知らない」
「『ヒカル』は?」
彼女は僕の目を見ない。点滴の入った袋をずっと見つめている。
「…………知らない」
「『光』は『輝』には勝てない」
「…………」
「『悠』は『遥』に遠く及ばない」
「…………なんで」
「夢を、見たんだ」
黒く、長い髪。病室の窓から流れてきた僅かな風にその髪は揺れる。
「そういう、夢」
「……そう、夢」
とてもとても悲しそうに呟く。
そんな君は僕と同じ名前の人が初恋だったね。
夢の話だ。忘れて。
僕は君をそんな顔にさせたいんじゃないんだ。
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