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テルの軍用義手がモーターの唸(うな)りをあげた。掴(つか)んでいた机の脚が鈍い音を立ててひしゃげていく。
「嫌なら、辞めろ。おれたちは日乃元の本土と人々を守るんじゃないのか」
「わかってるよ、そんなこと。おれの夢、覚えてるだろ。進駐軍の看板ぶらさげて、田舎(いなか)の公務員として楽して生きることさ。とっくに辞められるかなんて聞いてるさ」
タツオはクニの顔を見つめた。意外だった。ここにくるまでに、この友人は操縦者候補からの辞退の道を探っていたのだ。それが可能なら、いざというときに自分の逃げ道もできるかもしれない。タツオはいった。
「上はなんていってた?」
乾いた声でクニは短く笑った。
「もう戦闘中と同じ扱いなんだそうだ」
それだけで絶望的な気分になった。4人全員に意味は伝わる。戦闘中の軍令違反は悪質なものなら、その場で射殺されても文句はいえない。
勝手な戦線離脱も命令違反も、軍法会議では極刑まである重罪だ。クニの声が秋風に負けないほど細くなった。
「もう『須佐乃男』からは誰も逃げられないのさ。おれ、ほんとに地元の図書館長になれるのかな」
もう誰も応える者はいなかった。秋深い北不二総合演習場を冷たく乾いた夜風が吹き抜けるばかりである。
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