第3話 行方調査

2/4
前へ
/79ページ
次へ
「家出少女を捜すの?」 春樹はいつものように美沙のデスクに自分の回転スツールを近づけ、美沙の取りだした調査依頼書を読んだ。 「谷川理紗、16歳、高校1年生。家出常習犯らしいわよ」 美沙が言った。 これは本社、つまり立花聡(たちばな・さとし)局長の元に来た案件だが、行方調査専門にやっているこの鴻上支所に回されてきた。 鴻上というのは単にこのテナントビルのある区画の名称で、この『立花探偵社・鴻上支所』の所長はもちろん戸倉美沙。従業員はこの春入社したばかりの春樹だけという、こじんまりした事務所だ。 時間と手間を取られる割りに成功率が低いやっかいな行方調査は、専門にやっている美沙に任せた方が効率が良い。 公式ではないが、美沙と立花局長の間で、そういう取り決めが行われていた。 すでに昨夜、美沙は依頼人である母親同席の元、立花局長から引継ぎを受けてきていた。 未成年の家出人調査は一番厄介だ。目の行き届かなくなる年頃だけに、親からの情報は、とても少ない。 子供部屋から無くなっている物、その日の服装。失踪の原因はおろか、交友関係者のリストアップもまともに出来ないケースが多い。 今回の谷川理紗に関してもそうだった。 辛うじて分かった少ない友人や知人のリスト、そして予想される立ち寄り先のリストだけが頼りだ。 「警察に捜索願いは出してるんでしょ?」と、春樹。 「もちろん。2ヶ月前にね。今までも家出の度に捜索願いを出してるのよ、この母親。中1の頃から谷川理紗の家出実績は数知れず。そのほとんどが、ぶらっと1週間ほどで自分から帰ってくるパターンでね。今回も地域課の警官に“またですか”って言われたらしいわ」 美沙も少しばかり困惑の表情だ。 春樹はじっと少女の資料写真を見つめた。 自分と2つしか違わないその少女は、幼い顔立ちの上に濃いメイクを施していた。冷めたような眼差しは見ているこちらを落ち着かない気分にさせる。 「今度もまたふらっと帰ってくるといいのに」 希望を込めて、春樹は言った。 「だと良いんだけどね。だけど今回はもう2カ月以上になるのよ。だから本気で心配になって母親がうちに依頼に来たって訳。警察が家出娘を本腰入れて捜してくれる機関じゃないって、今頃気付いたのね」 美沙は腕組みをして、回転イスの背もたれに身を預けた。
/79ページ

最初のコメントを投稿しよう!

89人が本棚に入れています
本棚に追加