ホテルで働く人

2/7
19人が本棚に入れています
本棚に追加
/225ページ
 ここか、私の職場は。  ルマンド市は見上げるほどに高いビルがたくさん並ぶ都会だった。その一角にひときわ大きな淡いオレンジ色の建物がそびえたっている。その名もホテル錦鶴。漢字の読み方がよくわからない。にしきづる、かな?無駄に凝っていることは確かだ。こんな大きくなくても人は泊まれると思う。巨人が泊まるならまだしも。  きっちりした制服を着た男の人が立つ入口をくぐると、吹き抜けの開放的な広い部屋に出た。噴水まであったので私はすっかり驚いてしまった。 「お客様。そこのお客様、止まってください。」 後ろから声がしたので振り返るとさっきの男の人が、こちらに駆けてくるところだった。 「お客様、恐れ入りますが、当ホテルではジーンズは禁止となっています。」 禁止?ジーンズが?私は水色のTシャツにジーンズ、緑のリュックサックを背おっている。  男の人が言葉をつないだ。 「お客様はここ、ホテルきんかくに宿泊予定ですか?」 へえ、錦鶴ってきんかくと読むのか。 「いえ。雇ってもらえることになっていて。」 「ああ。ノンドミア家の。」 男の人の目がきゅっと細くなる。 「最上階・・・15階に社長室がございます。詳しくは、その階の受付でお聞きください。エレベーターはあちらです。」
/225ページ

最初のコメントを投稿しよう!