同居人

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9月に入ったけれど、やっぱりまだ残暑がきつい。汗だくになりながらホテルの前の道を掃除し終わって、中に入ろうとするとちょうどスーツケースを持った老紳士が出てくるところだった。 「いってらっしゃいませ」  頭を下げるとその人が笑って言った。 「とてもいいホテルでした。ありがとうございます」  なんだかとても幸せな気分になった。最高の笑顔を作る。 「またのご利用をお待ちしております」  老紳士は片手をあげながら去っていった。  私はガッツポーズを作り飛び跳ねながらホテルに入っていく。言った。言ってやったぞ、かっこよく。    最近ホテルの仕事にやりがいを感じるようになった。お客さんにお礼を言われたとき、ナナさんに褒められたとき、自分の掃除した場所がふと、きれいに見えたとき。  やりがいというのはノンドミア家ではほとんど感じなかった感情だ。たぶんあそこではあまり私の仕事によろこんでもらうことがなかったからだと思う。お母様やお姉さまは、褒めたりはしたけど、喜んでいるという感じではなかったのだ。  私は今、結構幸せだ。  廊下の角で社長のアルソンさんと、なんかいつも偉そうな(実際、偉い人なんだろうけど)ブッセルさんが話し込んでいた。結構静かな廊下の角で、だ。  なんだか深刻そうな顔だったので、面倒くさいことが嫌いな私はすぐ立ち去ろうと思った。しかし、少し、いやとても、気になる言葉が聞こえてしまった。 「社長、どうするんですか。このままではこのホテルはつぶれてしまいます」  なんだって?私は思わず柱の陰に身を隠した。
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