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働くなった頭は、やっとの事でそう言った。
何も聞こえないように、耳に栓をしなくては。世界に栓をしなくては。
そうしたら、これが、なかったことに。
なかったことに。
……なるわけがない。
息をすることを忘れていて、肺が悲鳴をあげる。
理解はできた。
そうか、あの人たちが死んでしまったのか。
殺されてしまったのか。
あまりに心の中にあっさり治ったことに絶望を覚える。
わからない。
今まで当たり前に生きていた人たちがもう、いない。そうだ、いないのだ。
足元が揺れる。水面を思い出した。底のない、正体の掴めない液体の膜。
自分のいる場所がわからなくなることなど、初めてだ。
カタン
気がつくと箒が床に転がっていた。
箒を落とさなかったことになどできるわけがなくて。私の母と姉たちを生き返らせることなどできるわけがなくて。
私はすがる。
復讐という言葉を、世間知らずの私は知っていた。
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