第1章

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暖かな春の日。 月命日に早咲きのバラを切って仏壇に供える。 「私も今年で定年を迎えることになっちゃったわ。振り返ればあっという間だったなぁ。」 時はなんと速く過ぎ行くものだろう。 感慨に耽りながら、もう一度、手を合わせると、その静かな空気を無粋なベルが引き裂いた。 携帯ではなく固定電話にかけてくるなら親戚の誰かだろうと受話器を手にする。 「はい。どちら様?」 が、予想に反して耳に飛び込んできたのは意外な声だった。
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