群青2 モノクロ第5話

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「乾」 指定された場所は、会社から程近い喫茶店。 ドアに付いたベルが、チリン。となって俺の来店を知らせると、奥のテーブル席にいた人物が軽く手を上げ、俺を呼んだ。 「悪いな、わざわざ来てもらって」 「いえ。お待たせして申し訳ありません」 サチの件で何度か電話で話すことはあったが、こうして直接会うのは久方ぶり。 彼の正面に腰をかけ、ビジネスバッグを脇に置く。 お冷とおしぼりを運んできた店員に「同じものを」と注文して、バッグから資料を取り出した。 「助かるよ。あの先生手強いからさ、お前から引き継ぐ前に少しでも情報集めておきたくて」 俺から渡された資料に目を通しながらそう話す彼は、いつもの見慣れたイタリア製の品のあるスーツではなく、ベージュのカーディガンに白のワイシャツ、グレーのスラックスというラフな姿。 それでもこのシックで落ち着いた喫茶店の雰囲気に合ってしまうのは、彼自身がもつ魅力のせいだろうか。
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