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『のぞき』って言うんだって。
さすがに五年生にもなったら、それが良くないことだって知ってる。
だから秘密にしてる。
バレなきゃ誰にも迷惑かけないし。と、ザイアクカンを小さくする呪文を唱えながら、おれはいつもみたいに接眼レンズを覗いた。
最初に見えたのは、なんと知ってる人の家だった。
「げ、藤本(ふじもと)先生」
体育の藤本先生だった。
刈り上げ頭で筋肉モリモリで目つきが悪い、スゲー厳しいと評判の先生。実際、おれも何度も怒られてる。
先生は今帰ってきたところみたいで、上着を脱ぐと、急にしゃがんだ。
でも先生の姿が見えなくなったのは一瞬で、すぐに背筋を伸ばした。
その手には。
「えぇ~~?」
一匹の猫がいた。
茶トラのふわふわな毛並みで、手足が短い。
テレビで見たことある、たぶんマンチカンっていう種類だーーって先生、猫飼ってたの?
それからすぐに、藤本先生の顔は目も当てられないくらいにふにゃふにゃになった。
『相好を崩す』ってこないだ国語で習ったなぁ。あんな感じかな。
猫に頬ずりをしたり、ちゅっちゅとキスをしたり、モミモミナデナデしたり……うわー引くわー。
いつもしかめ面で、何かって言うとすぐ怒鳴る先生なのに、猫の前ではあんなんになるのか。
(引くわー……)
何故かいたたまれないキモチになって、おれは望遠鏡の向きを変えた。
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