図らずも秤にかける羽目になった浜野蓮輝の恥ずべきシュミ

8/8
前へ
/8ページ
次へ
 もし。  おじいさんを助けたのがおれだと皆が知ったら。  パパもママもばぁばも誉めてくれるだろう。いじわるな兄ちゃんだって「やるじゃん」って言うかもしれない。  でも、その次は絶対この質問が来る。  『どうしておじいさんが倒れたのが分かったの?』って。  そうなれば。  言わなきゃいけない。  望遠鏡を覗いていたことを。  たまたま観えたとホラを吹く(実際その通りなんだけど)ことはできるけど、もしかしたら、万が一。 (お姉さんが……カーテンを閉めちゃうかもしれない)  マンションの五階でも、家の中は覗けるとお姉さんが知って、着替えはカーテンを閉めてからにするかもしれない。  そうなったらおれは、『あの続き』を一生観れない。  何であのとき目をつむったんだろう、おれのバカーーと後悔しても遅い。 (っていうか、待てよ?)  もしかしたら、あの望遠鏡で人様の家を覗けることを知ったパパとママが、おれから取り上げるかもしれないじゃん。  兄ちゃんもこないだ、水着グラビアの本を没収されてた。  パパに、「お前にはまだ早い」とかワケわかんないこと言われて。  そうなればおれはもう『人間観察』ができない。おれの最大の楽しみ、いちばんの趣味なのに。 (どーしよう……)  ふたつの選択肢が目の前にあった。もうメロンパンも喉を通らない。  ヒーローになれるチャンス(とお金)をとるか。  趣味(とお姉さん)をとるか。  見えない秤が、ぐらぐら揺れていた。  了
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加