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もし。
おじいさんを助けたのがおれだと皆が知ったら。
パパもママもばぁばも誉めてくれるだろう。いじわるな兄ちゃんだって「やるじゃん」って言うかもしれない。
でも、その次は絶対この質問が来る。
『どうしておじいさんが倒れたのが分かったの?』って。
そうなれば。
言わなきゃいけない。
望遠鏡を覗いていたことを。
たまたま観えたとホラを吹く(実際その通りなんだけど)ことはできるけど、もしかしたら、万が一。
(お姉さんが……カーテンを閉めちゃうかもしれない)
マンションの五階でも、家の中は覗けるとお姉さんが知って、着替えはカーテンを閉めてからにするかもしれない。
そうなったらおれは、『あの続き』を一生観れない。
何であのとき目をつむったんだろう、おれのバカーーと後悔しても遅い。
(っていうか、待てよ?)
もしかしたら、あの望遠鏡で人様の家を覗けることを知ったパパとママが、おれから取り上げるかもしれないじゃん。
兄ちゃんもこないだ、水着グラビアの本を没収されてた。
パパに、「お前にはまだ早い」とかワケわかんないこと言われて。
そうなればおれはもう『人間観察』ができない。おれの最大の楽しみ、いちばんの趣味なのに。
(どーしよう……)
ふたつの選択肢が目の前にあった。もうメロンパンも喉を通らない。
ヒーローになれるチャンス(とお金)をとるか。
趣味(とお姉さん)をとるか。
見えない秤が、ぐらぐら揺れていた。
了
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