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ああ、そうか。私は妻の思い出をこのエッセイとやらに詰め込みたいのだ、と気付いた。
筆を走らせながら、妻との思い出を辿る。
金が無い私は、結婚式さえ挙げてやれず、仲人の家で他所様から借りた白無垢と羽織袴を着て、そこの庭でお披露目をした夏。出席者も互いの身内しかいないごくごく控えめな結婚式とも呼べない挙式。
その夜。
仲人の家で振る舞われた酒に酔っ払って、寝着に着替えて恥じらいと緊張で待っていた妻に介抱されて初夜は終わってしまった。
翌朝、謝罪をした私に、クスリと笑って気にしないで欲しい、と言った妻は可憐だった。その夜、改めて床を共にして、本当の夫婦になった。
妻を手に抱いて思ったのは、売れない作家など辞めてしまおう。ということ。
とはいえ、いくら売れなくても面倒を見てくれている出版社に、いきなり辞めます。とは言えず、書いていた作品を仕上げたら話を切り出そうとしていた。
その前に妻には話しておくべきだろう。
作品に集中するためしばらく話し合う機会を作らなかった。ようやく目処がついて妻に話が有る。と告げたのは、1ヶ月後の事だった。
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