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それから、あれよあれよ。という間に、作家で身が立つくらいの稼ぎが出来、1日1食という日が無くなる程度には、養えるようになった。更には結婚してから初めて妻にお洒落をさせてあげる事が出来た。
好きに衣服を買ったり、化粧道具を買って来て欲しい、と。妻がはにかんだ笑顔で頷いてくれた事は今でも覚えている。
しかし、幾らか自分の物を買ったら、後は私の物を買って来て、何のために妻に稼ぎを渡したか、良く解らない状況になってしまった。更に、貯金もしていた。好きな物を好きなだけ買って来ていい、と言える程稼いでいなくても、渡した稼ぎくらい使ってしまって良かったのに。
そう思ったのは仕方がない。
妻は、そんな私の心情に気付いていたのか柔らかく笑うと、口を開いた。
「子どもが欲しいですから。子どもが産まれたら、幾ら有っても足りませんよ」
そんな話を聞かされてしまえば、私の子どもじみた心情など、封じておくしか無かった。妻に愛想を尽かされるなど、とんでもなく困り果てる。全くもって、私には勿体無いくらいの良く出来た妻である。
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