第15章 引き続き、拝島くんとわたし

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「ごめんてば。場所的にここがちょうどよかったんだもん。そんなにかかんないって言ってたから、もうすぐ…、あ」 ドアの開く時のカラカラいうベル音。目を上げると見覚えのある若い男だ。 …ああ。こいつか。 「お疲れ、喬史」 少し酔った真砂が缶を持った片手を挙げる。その男、市原は黙ったまま何故かむっとした表情で彼女の隣に腰を下ろした。俺は肩を竦め、冷蔵庫からもう一本缶ビールを出してそっちへ押しやった。 「仕事無事終わったの?」 「うんまぁ…、何とか。疲れた…」 ぼそぼそと呟き、重い表情で缶に口をつける。こんなに疲れてるのにこの後底なしの性欲に付き合わされるんじゃ。俺は少し気の毒になり、思わず差し出がましく言った。 「おい、彼、疲れてるんじゃないのか。お前の勝手な都合でつき合わせたら…」 「こいつに手を出されたくないってことですか」 唐突に噛みついてくる若い男。俺は内心カチンときた。何言ってんだこいつ。人が庇ってやろうとしたのに。 「いやまさか。俺はこいつとは何でもないし」 大体さっきまで仕事で何人もの男とやってたことがわかってるのに、今更ひとり増えたからなんだってんだ。真砂もあっけらかんと笑い飛ばす。 「そうだよ、何言ってんの。大体拝島くんには桐子がいるんだから。今だって部屋で帰りを待ってるんだよね?」 そうだよ。頼むから早く帰ってくれ、お前ら。 もっと早く店閉められたら、今日は彼女としたかったのに…と内心で未練がましく思う。 「まぁ、この時間だからもう熟睡してるよ」 そう軽くいなすと市原の目が細くなった。…ああ、そうか。こいつ、桐子を。 そうとなれば俺も遠慮はしない。まっすぐその目を見返した。絶対にお前に彼女を渡すことなんてないから。早々に諦めた方がいいよ。 市原はふと目を逸らし、真砂に視線を向けた。 「やるんだろ?どっちの部屋行く?」 なんだその口の利き方。もっと女の子を丁寧に扱え。それが例え相手は誰でもお構いなし、性欲底なし女の真砂でも。俺は苛つきつつ口を挟む。 「おい、勝手に桐子の部屋に上がりこむなよ」 彼女のベッドなんて使われたら…と思うとぞっとする。他の男が乗ったベッドなんか丸ごと捨ててやる。そしたら新しいの買ってやろう。 奴の目が本格的に尖って見えた。 「もう自分のもの扱いですか。真砂とはできないけど彼女とはできるってだけで手ぇ出したくせに。彼氏面しないで下さいよ」
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