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俺は唖然とした。何言ってんだこいつ。俺がいつそんなこと言ったよ?
その時は桐子本人も漠然とそう思ってるとは考えもしなかったから、俺は普通にむっとした。何でそんなことこいつに言われなきゃならないんだ。
何か言い返そう、と口を開けた時にはもう向こうに畳み掛けられていた。
「大体、あんな目に遭った女の子を保護するんならともかく…、結局自分が手を出しちゃってるんじゃないですか。やってることはあの連中と大して変りないでしょ。本当は最初からそのつもりだったんじゃないですか。桐子ちゃんのことを心配してるような振りをして、弱ってる彼女の隙を見てたんだ。そんな男に」
「喬史、言い過ぎ」
思わずカウンター越しにそいつの喉元を掴みそうになった俺を手で制し、真砂が静かにたしなめた。
「あんただって他人のこと言えないでしょ。どうせチャンスがあったら自分だって桐子に行ったんじゃん。自分がしたいことを他の男がしたからって八つ当たりするんじゃないよ。全く、こっちの目を盗んで連絡先渡したりこっそり口説いたり油断も隙もないくせに」
俺は目を細めて腕組みをした。ふぅん、そういうことしてるわけだ。そりゃ他人のことどうこう言える立場じゃないよな。
真砂は奴の腕を取って立ち上がった。
「あんたの相手はあたしがしてやるって言ってるでしょ。男とは二人きりでしないって原則もあんたには適用してないんだよ。有難いって思いな。あたしの身体を独り占めできるのはあんたと桐子だけなんだから」
それを耳にして微妙な気持ちになる。…そうか。
もしかしたら真砂の奴、意外に本気でこいつのこと気に入ってるのかもしれないな…。
はっと気づくと、俺の表情の変化を市原がじっと見ていた。微かに口の端を歪ませる。何だよ、その顔。
『やっぱりね』みたいな表情するな。
真砂は勘定つけといてね、と俺に声をかけると、奴の腕をぐいぐいと容赦なく引っ張って出口に向かった。
「前から言ってるでしょ、あんたには桐子に指一本触れさせない。それくらいならあたしの身体で気絶するくらいいい目見させてやるって。こないだも三回もいったくせに。朝まであたしで遊ばせてあげるから」
「ちょっと待てよ、いつも思うんだけどさ。何で俺は駄目でそいつはいいんだよ、桐子ちゃんのこと。そいつだって彼女から追っ払えよ、ちゃんと」
真剣に食ってかかる市原。いいじゃないか、真砂でいい思いしてるんなら。
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