第15章 引き続き、拝島くんとわたし

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俺はいつもの時間に起きたから、相当早く出て行ったに違いない。俺と顔を合わせたくなかったんだろう。俺はベッドの上でうずくまった。 調子に乗って彼女の身体にしてしまった様々なこと、真砂にふと抱いてしまった疚しい気持ち。そしてあの男に八つ当たり気味に言われた言葉が改めて胸に刺さる。 『彼女を守る振りして弱ってるところを近づいて、結局してることはあの連中と同じじゃないですか』 …桐子にそれを見透かされたのか? 俺は頭を抱えた。彼女は俺のところに戻ってきてくれるだろうか。 もしかしたらもう俺の部屋には二度と来ないかもしれない。…そうしたら、俺は彼女のことを追いかけていいんだろうか。彼女を迎えに行ったりして、あの怯えた目をまた向けられたら…。 でも、桐子なしでなんてこの先とても…。 想像するだけでゾッとした。彼女がどうしても嫌ならセックスだって我慢できる。ただそばにいてくれるだけでいい。一緒に眠って、食事をして、休みの日を二人で過ごして。 そっと抱きしめてキスするだけでもいい。彼女なしの人生に較べたら。何だって受け入れる。 彼女が求める通り、思う通りのつきあいでいい。とにかく俺の前からいなくならないでくれ。 彼女が来る予定の晩、祈るような思いで部屋を覗き込んだ俺は安堵で泣きそうになった。小さな頭がベッドから覗いている。深く寝入っている彼女を起こさないようなるべく静かに浴室を使い、寝る支度をしてそっと彼女の隣に身を滑り込ませた。彼女がぴくっと身を震わせて目を覚まし、ふと身体の緊張を緩めて安堵したのがわかった。 桐子も何かを恐れてたんだ。 でも、それが何なのかはわからないけど、お互いの恐れていたものが身を寄せ合うことで解けてなくなっていくのがわかる。俺はどうしようもない男だけど、やっぱり俺たちはそばにいないと駄目なんだ。彼女をそっと抱きしめ、唇を寄せて囁くように言う。 「…おかえり」 桐子はちょっと笑った。そうか、今帰ってきたのは俺の方だった。彼女の小さな声が俺の胸に響いた。 「ただいま」 彼女から別れを切り出された時、俺の脳裏にそういう様々な光景が一気に蘇ってきた。でも、一度別れを覚悟した経験は身に沁みている。ここで取り乱してはいけない。冷静に考えろ。 彼女の様子はむしろつらそうだ。俺と別れたくてたまらないようには思えない。俺のこと嫌いか、と訊くと、案の定頭を強く振って必死に否定した。
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